山田大使ご挨拶
令和6年4月24日
山田大使離任レセプションにおけるご挨拶(2024年4月23日)
グエン・ミン・ヴー外務省筆頭次官、ベトナム共産党、政府及び地方省市指導者の皆様、外交団の皆様、邦人の皆様、御臨席の全ての皆様、
本日は、私の離任レセプションに足を運んでいただき、心から感謝申し上げます。
時の流れは速いもので、2020年4月の着任以来、はや4年もの歳月が過ぎてしまいました。本日ご臨席いただいている皆様をはじめ、沢山の方々の御支援のおかげで、こうして無事に任務を全うできますことに、改めて心より感謝申し上げます。
正直な気持ちを打ち明けますと、両国はもとより、地域や世界からも注目されつつある大切な日越関係を、外交的にマネージする重責から解放されるかと思うと、少々安堵もしております。
さて、この4年間を振り返りますと、前半は、新型コロナ・ウィルス対応に奔走し、後半は、日越外交関係樹立50周年を迎えて両国関係がかつてない盛り上がりを見せ、忙しくはありましたが、大変充実したありがたい時間であったように感じております。
私がベトナムに着任した2020年4月は、新型コロナ・ウィルスが世界中で猛威を振るい始めており、世界が未曾有の困難に直面していました。日本、ベトナムも例外ではありませんでした。
しかし、日越両国は厳しい状況にありながらも、ともに肩を組んでコロナ禍を乗り越えていきました。ベトナムは、日本国内でマスクが不足していた時期にいち早く医療用マスクの日本への提供を申し出てくださいました。私は、このご恩を決して忘れないつもりです。
一方、日本もまたベトナムに合計で700万ドース以上のコロナ・ワクチンを提供させて頂きました。「まさかの友こそ真の友」という諺の意味を、これほどまでに実感したことはありませんでした。
そして、コロナ禍の中にあっても、日越間では首脳レベルの往来が絶えることなく継続されました。2020年10月、菅総理が総理就任後初の外遊でベトナムを訪問し、翌2021年11月にはファン・ミン・チン首相が岸田政権発足後の初の首脳級賓客として訪日されました。更に2022年4月には岸田総理がベトナムを訪問しました。
コロナ禍の中の首脳往来には、通常とは比べものにならない程注意深い入念な準備が必要でしたが、日越両国の関係者が夜遅くまで真剣な打ち合わせを重ね、知恵を出し会いながら準備を進めました。これらの首脳往来に関わった日越双方の全ての関係者の皆様に、改めて心より敬意と感謝を捧げたいと思います。
そして、コロナ禍が明けて迎えた2023年は、日越外交関係樹立50周年の記念すべき年であり、日越の関係が「アジアと世界の平和と繁栄のための包括的戦略的パートナーシップ」に格上げされた歴史的な節目の年となりました。
2023年には、日越両国間でハイレベルの交流が極めて活発に行われました。2月には岸田総理とグエン・フー・チョン党書記長との電話会談が行われ、日越外交関係樹立50周年の素晴らしいオープニングとなりました。
5月のG7広島サミットにはファン・ミン・チン首相が出席され、更に11月の越国家主席の日本公式訪問の際には、両国関係を「包括的戦略的パートナーシップ」に格上げする共同声明が発出されました。そして、12月の日ASEAN特別首脳会議にはファン・ミン・チン首相が出席されました。
一方、2023年には日本からも多くの要人がベトナムを訪問しました。年初の1月には、菅前総理が訪越されました。5月には二階俊博会長他の日越議連の代表団が訪越し、チュオン・ティ・マイ越日議連会長他のベトナム要人に暖かくお迎えいただきました。
更に9月には尾辻参議院議長がベトナムを公式訪問されました。同じく9月には秋篠宮皇嗣同妃両殿下がベトナムを公式訪問され、ハノイでは国家主席、副主席との会見や、日越外交関係樹立50周年記念式典への参列などの日程をこなされ、その後ダナン、ホイアンにも足を運ばれて、日越の友好親善関係の促進に大きく寄与されました。
又、このようなハイレベルの交流だけではなく、日越双方において、草の根、次世代を担う若者、地方間等を含め、あらゆるレベル、地域において総数500を超える様々な50周年記念行事が実施されました。これは、両国の国民レベルにおいて、親しみや共感の絆が幅広く存在することの証左であり、最良とも言われる日越関係を象徴する1年となりました。
私は、日越両国の関係がこれ程までの発展を見せている背景には、経済的・政治的な利益の一致のみならず、日越両国の長い歴史的・文化的な繋がりによって生み出されている特別な「共感と共鳴」があるのではないかと考えています。
ベトナムは、東南アジアの中では地理的にはもちろん、歴史的、文化的に見ても、日本を含む北東アジアに最も近い国です。大乗仏教や儒教の影響が強いこと、漢字を語源とするボキャブラリーが多いことなど、ベトナムは他の東南アジア諸国にはない高い「北東アジア性」を備えています。
又、日越間には長い歴史的交流があったことも記録されています。8世紀には、林邑僧(りんゆうそう)仏哲が、奈良・東大寺の大仏開眼式のために来日し、「林邑楽」を奉納したという逸話があります。
16世紀から17世紀にかけては、朱印船交易が日越両国を深く結びつけました。この時代のグエン朝・アニオー姫と長崎の商人・荒木宗太郎の間のラブストーリーは今も語り継がれており、この話をテーマにした50周年記念オペラ「アニオー姫」が日越両国で公演され、9月のハノイ初演を秋篠宮皇嗣同妃両殿下とクアン副首相に御鑑賞いただきました。
そして最後に申し上げたいことは、グローバルな規模でイノベーションが急速に進展する中で、今後の日越関係は、DXやGXといった新たな分野でより高度な協力を進めるパートナーシップに発展していくであろうということです。
この4年間、私は様々な場面でベトナムの方々の優秀さに驚かされてきました。身近な例を挙げますと、我が日本大使館のナショナル・スタッフには、高度な日本語の通訳ができる人材が数多くいます。これ程多くの日本語通訳を擁している日本大使館は、世界を見渡してもおそらく在越大以外にはないでしょう。
又、私はベトナムの大学で多くの学生の皆さんに日越関係についての講演をする機会をいただきました。そして、その度ごとに、ベトナムの学生の皆さんの知的好奇心の旺盛さ、質問の鋭さ、日本語力の高さに感心させられました。
又、理数系に強い人材を多数輩出していることもベトナムの大きな強みです。昨年日本で、世界から100ヵ国以上を集めて数学オリンピックが開催されましたが、ベトナム・チームは日本チームとほぼ同等の大変優秀な成績を収められました。
既に、日越の協力関係には高度化の兆しが見られます。昨年末時点で在日ベトナム人の総数は57万人となりましたが、その内訳を見ると、近年、高度人材の割合が着実に増加しています。又、新規にベトナムに進出する日本企業の中にIT関連企業が締める比率も、特にダナンでは目に見えて高くなってきています。
更に、先月、日越のハイレベルでスタートさせた新たな日越共同イニシアティヴにおいても、DX、GXや高度人材の育成が主要議題として盛り込まれました。
このような流れの中で、日越双方の高度人材が両国の協力関係の主要な担い手となり、今話題の半導体やAIの分野を含め日越双方において高度なテクノロジーを用いた産業の発展に貢献する、そういう時代が遠からず到来すると感じています。そして、新たな時代においては、日越の「包括的戦略的パートナーシップ」は、アジアと世界の平和と繁栄のために益々大きな役割を担うこととなるでしょう。私はそのように確信しております。
外交官として走り続けてきた41年間、私は幸運にも数多くの貴重な経験をしてきました。中でも、当地で過ごした4年間は、とても密度の濃い、充実した、特別な時間であったと感じております。
特に、日越外交関係樹立50周年であった2023年は、日越関係にとって「包括的戦略的パートナーシップ」への格上げが行われた歴史的な節目の年となりました。又この年は、私個人にとっても、様々な歴史的場面に立ち合わせていただいたことや、日越関係が持つ無限の可能性を実感させていただいたという意味で、本当に特別な年であったと感謝しております。
私は間も無く、ベトナム大使としての任期を終えますが、今後どのような立場にあろうとも、ベトナムで知己を得た皆さまとの信頼と友情を大切にするとともに、微力ながら、日越の関係の発展のために尽くしていこうと考えております。これまでに皆様から頂いたご支援やご協力に改めて心からの感謝の意を表しつつ、私の離任のご挨拶とさせて頂きます。
4年間、本当にありがとうございました。